車検や鈑金修理の代金を現金で受け取り、5万円以上の領収書を渡すときは、収入印紙を貼って消印をします。窓口では「割印を押しておいて」と言われることも多く、消印と割印の区別があいまいなまま運用している工場も少なくありません。印紙税法が求めているのは消印で、方法は第8条第2項と施行令第5条に書かれています。消し方を間違えると印紙を貼っていても過怠税の対象になり、貼り忘れは本来の税額の3倍になります。この記事では、消印と割印の違い、消印に使える印やサインの範囲、貼り忘れと消印漏れの過怠税を、条文と国税庁の質疑応答事例で確かめながら整理します。最後に、紙の領収書をやめて電子で渡せば、この作業自体が要らなくなる理由も説明します。
この記事で確認した一次情報
- 印紙税法(e-Gov法令検索)第8条(印紙による納付等)、第20条(過怠税)、別表第一第17号
- 印紙税法施行令(e-Gov法令検索)第5条(印紙を消す方法)
- 印紙の消印の方法(国税庁 質疑応答事例)消印に使える印章と署名の範囲、共同作成の場合
- 印紙を貼り付けなかった場合の過怠税(国税庁 質疑応答事例)3倍と1.1倍、消印漏れの過怠税
- No.7131 印紙税を納めなかったとき(国税庁 タックスアンサー)過怠税は損金や必要経費に算入されない
- 印紙税法基本通達 第63条〜第65条(国税庁)使用済みの印紙、共同作成の消印、印章の範囲
収入印紙の消印と割印の違い
収入印紙の消印とは、課税文書に貼った印紙を再び使えないようにするため、文書と印紙の彩紋とにかけて印や署名で消すことです。印紙税法第8条第2項は、課税文書の作成者が印紙を貼る場合には「当該課税文書と印紙の彩紋とにかけ、判明に印紙を消さなければならない」と定めています。施行令第5条は、消す方法を作成者本人か代理人(法人の代表者を含む)、使用人その他の従業者の「印章又は署名」としています。一方の割印は、契約書の正本と副本のように2通以上の文書にまたがって1つの印を押し、文書どうしが関連していることを示す慣行です。印紙税法と施行令の条文に「割印」という言葉は出てきません。整備工場の窓口で「印紙に割印を押す」と言うときは、ほとんどの場合この消印のことを指しています。税務上の決まりがあるのは消印のほうなので、窓口の手順書にも「消印」と書いておくと、新しく入った事務担当者にも意味が伝わります。
| 項目 | 消印 | 割印 |
|---|---|---|
| 目的 | 貼った印紙の再使用を防ぐ | 2通以上の文書が関連していることを示す |
| 押す場所 | 文書と印紙の彩紋とにかける | 複数の文書の境目にまたがる |
| 根拠 | 印紙税法第8条第2項、施行令第5条 | 印紙税法と施行令の条文には出てこない |
| しなかった場合 | 消していない印紙の額面分の過怠税(第20条第3項) | 印紙税法上の過怠税の規定はない |
| 車業界の場面 | 5万円以上の現金の領収書、整備や鈑金の請負契約書 | 注文書と注文請書、契約書の正本と副本 |
割印を契約上の確認手段として取り決めている取引先もあります。印紙税法で求められていないことと、取引先との約束で求められていることは分けて考えてください。
消印に使える印鑑・サインの範囲
消印に使えるのは、作成者や従業者の印章か署名で、会社の実印や角印に限られません。国税庁の質疑応答事例「印紙の消印の方法」は、消印は印紙の再使用を防ぐためのものなので、作成者、代理人、使用人、従業者の印章か署名であれば、その文書に押した印でなくても差し支えないとしています。印紙税法基本通達第65条は、通常の印判のほか、氏名や名称を表示した日付印、役職名や名称を表示した印も「印章」に含めています。署名は自筆で、氏名のほか通称や商号でもかまいません。整備工場なら、会社名入りのゴム印、受付担当者の認印、工場名と日付が入った日付印のどれでも消印に使えます。ただし、単に「印」と書いたり斜線を引いたりしたものは印章や署名に当たらず、消印したことになりません。鉛筆での署名のように簡単に消せるものも認められません。
| 消し方 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 会社の角印、代表者印 | 消印になる | 施行令第5条 |
| 受付担当者の認印 | 消印になる(従業者の印章) | 施行令第5条 |
| 会社名や工場名のゴム印、日付印 | 消印になる | 基本通達第65条 |
| ボールペンで書いた担当者の氏名や商号 | 消印になる(自筆の署名) | 国税庁 質疑応答事例 |
| 「印」と書いただけ、斜線を引いただけ | 消印にならない | 国税庁 質疑応答事例 |
| 鉛筆で書いた署名 | 消印にならない(簡単に消せる) | 国税庁 質疑応答事例 |
共同で作る契約書は誰が消印するか
工場と顧客が2人とも記名押印する契約書のように、2人以上で作成した文書に貼った印紙は、作成者のうち1人が消せば足ります(基本通達第64条)。国税庁の質疑応答事例も、甲と乙が共同して作成した契約書について、双方が消印しても、どちらか1人が消印してもよいとしています。鈑金修理の請負契約書を顧客と取り交わす場合でも、工場側の担当者が消印すれば十分です。
「判明に」消すとはどういう状態か
第8条第2項の「判明に」は、一見して誰が消印したかがわかる程度に印を押すか署名することを指します。国税庁の質疑応答事例は、加えて通常の方法では消印を取り去れないことが必要だとしています。朱肉がかすれて誰の印か読めない状態や、印紙の端にわずかにかかっているだけの状態は避け、印紙と文書の両方にはっきりかかるように押してください。
収入印紙の貼り忘れと過怠税(3倍・1.1倍)
収入印紙を貼るべき課税文書に貼らずに渡した場合、過怠税は納付しなかった印紙税の3倍です。印紙税法第20条第1項は、納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額を過怠税として徴収すると定めています。たとえば車検代12万円を現金で受け取り、税額200円の領収書に印紙を貼り忘れると、計算上は600円になります。ただし同条第4項により、過怠税の合計額が1,000円に満たないときは1,000円になります。税務署の調査があったことで過怠税の決定を予知する前に、作成者が所轄税務署長へ納付していない旨を申し出た場合は、第20条第2項により1.1倍に軽くなります。この1.1倍だけの場合には1,000円の下限は適用されません(同条第5項)。国税庁のタックスアンサーNo.7131によると、過怠税は全額が法人税の損金にも所得税の必要経費にも算入されません。
| 状況 | 過怠税 | 条文 |
|---|---|---|
| 印紙を貼らずに交付し、調査で見つかった | 納付しなかった印紙税の3倍 | 第20条第1項 |
| 調査の予知前に、自分から税務署へ申し出た | 納付しなかった印紙税の1.1倍 | 第20条第2項 |
| 印紙は貼ったが消印しなかった | 消していない印紙の額面金額 | 第20条第3項 |
| 第1項や第3項の過怠税の合計額が1,000円未満 | 1,000円 | 第20条第4項 |
| 1.1倍の過怠税だけの場合 | 1,000円の下限は適用しない | 第20条第5項 |
車業界の金額で見た過怠税の例
領収書(第17号の1文書)の税額は、受取金額100万円以下が200円、100万円超200万円以下が400円、200万円超300万円以下が600円です(印紙税法別表第一、国税庁タックスアンサーNo.7105)。この税額表で、整備や販売の場面に当てはめると次のようになります。発行件数が多い工場ほど、貼り忘れが続いたときの3倍の負担は大きくなります。
| 場面(現金で受領) | 本来の印紙税 | 貼り忘れ(3倍) | 自主申出(1.1倍) |
|---|---|---|---|
| 車検整備 120,000円 | 200円 | 600円(合計1,000円未満なら1,000円) | 220円 |
| 鈑金塗装 1,500,000円 | 400円 | 1,200円 | 440円 |
| 中古車販売 2,800,000円 | 600円 | 1,800円 | 660円 |
| 車検の領収書200円分を月30通 | 6,000円 | 18,000円 | 6,600円 |
1,000円の下限が1通ごとにかかるのか、まとめて決定された合計にかかるのかは、第20条第4項の「過怠税の合計額」の読み方によります。個別のケースは所轄の税務署に確認してください。
消印漏れ・使用済み印紙の扱い
印紙を貼っても消印をしなかった場合、消していない印紙の額面金額に相当する過怠税がかかります(印紙税法第20条第3項)。200円の印紙を貼ったまま消し忘れれば200円分ですが、ここにも第4項の1,000円の下限がかかります。貼っただけで消していない印紙は、ほかの文書に貼り直して使うこともできません。基本通達第63条は、彩紋が汚れた印紙、消印された印紙、消印されていない使用済みの印紙は、第8条第1項の「印紙税に相当する金額の印紙」に含まれないとしています。国税庁の質疑応答事例「印紙の範囲」も、こうした印紙を貼っても印紙税を納めたことにならず、過怠税の対象になるほか、第21条や第24条により処罰の対象になると説明しています。車検の現場で扱う自動車重量税印紙や自動車検査登録印紙も、印紙税の納付には使えません。印紙税を納めるのは収入印紙に限られます。
- 使えない印紙:自動車重量税印紙、自動車検査登録印紙、雇用保険印紙、健康保険印紙、特許印紙、登録印紙(国税庁 質疑応答事例「印紙の範囲」)
- 使えない状態:彩紋が汚れた印紙、消印された印紙、消印されていない使用済みの印紙(基本通達第63条)
- 使用済みにならないもの:用紙に貼っただけで、課税文書の作成(交付)の前のもの(基本通達第63条第2項)
誤って多く貼った印紙や、課税文書でない文書に貼った印紙は、税務署で過誤納の確認を受ければ還付される場合があります。国税庁のタックスアンサーNo.7130によると、還付の請求権は請求できる日から5年で消滅します。
整備工場・車販店の窓口で消印漏れを防ぐ手順
消印漏れと貼り忘れは、手順を固定すればほぼ防げます。現金で5万円以上を受け取る場面は、車検の引き渡し、鈑金修理の精算、中古車の残代金の受け取りなど、ある程度決まっています。国税庁のタックスアンサーNo.7124が示すとおり、領収書に消費税額等を区分して書けば、税抜の金額で5万円以上かどうかを判定できます。たとえばオイル交換と部品代で税抜48,000円、消費税4,800円、合計52,800円と区分して書いた領収書は、記載金額48,000円となり非課税です。逆に税込52,800円だけを書くと200円の印紙が必要になります。窓口では、金額を確定させてから区分記載で書く、印紙を貼る、その場で担当者印で消印する、控えに印紙額を書き込む、という順番を決めておくと、確認する人が変わってもぶれません。
- 現金で受け取る金額が税抜5万円以上か、領収書を書く前に確かめる
- 消費税額等を区分して書く(税抜金額で判定するため)
- 印紙を貼ったら、その場で担当者印か日付印で、印紙と用紙の両方にかけて消す
- 印紙の在庫は額面ごとに枚数を記録し、不足に気づいた時点で補充する
- クレジットカード払いは、その旨を領収書に書く(印紙の要否が変わる)
クレジットカード払いの扱いは別の記事で詳しく説明しています。収入印紙の購入場所や、額面を間違えて買ったときの交換については「収入印紙はどこで買う?」にまとめました。
電子領収証なら印紙・消印の作業そのものが不要
印紙税は、紙の課税文書を作成して相手に交付したときにかかります。国税庁の印紙税法基本通達第44条は、課税文書の「作成」を、用紙等に課税事項を記載して文書の目的に従って行使することとし、相手方に交付する目的の文書は交付の時を作成の時としています。福岡国税局は平成20年10月24日の文書回答事例で、注文請書を紙で渡す代わりにPDFに変換して電子メールで送信した場合は課税文書を作成したことにならない、という照会者の見解を「差し支えありません」と回答しました。領収書も、PDFなどの電子データで渡せば印紙を貼る紙がそもそも存在しないため、貼り忘れも消印漏れも起きません。整備システム・整備ソフト DREAM POWERのオプション「電子領収証システム」は、いつもの入金入力から「電子で発行」を選ぶとPDFの電子領収証が作られ、お客様にはQRコード付きの案内用紙を渡します。案内用紙には「本紙は領収証ではありません」と書かれています。
限界も知っておく
お客様の求めで紙の領収書を作って渡した場合は、通常どおり印紙税の対象になります。電子領収証システムは発行時に「紙で発行」と「電子で発行」を選べるため、紙で出す場合の消印手順は残しておく必要があります。個別の取扱いは顧問税理士か所轄の税務署に確認してください。
整備工場・車販店の領収書を電子化しませんか?
車検や鈑金の精算で5万円以上の現金領収書が多い工場ほど、印紙の購入、貼付、消印、控えの保管の手間が積み上がります。整備システム・整備ソフト DREAM POWERの入金入力から電子領収証を出す運用に切り替えられるか、今の発行件数をもとにご相談ください。
よくある質問
- 収入印紙の消印は、会社の角印でないといけませんか?
- 角印である必要はありません。印紙税法施行令第5条は、作成者本人か代理人、使用人その他の従業者の「印章又は署名」で消すと定めています。国税庁の質疑応答事例と基本通達第65条によると、氏名や名称を表示した日付印、役職名や名称を表示したゴム印も印章に含まれます。受付担当者がボールペンで自分の名前を書いて消すこともできます。
- 消印をボールペンの斜線や「印」の字で済ませてもいいですか?
- 国税庁の質疑応答事例「印紙の消印の方法」は、単に「印」と表示したり斜線を引いたりしたものは印章や署名に当たらず、消印したことにならないとしています。鉛筆の署名のように簡単に消せるものも同じ扱いです。誰が消したかが一見してわかり、通常の方法では消せない書き方にしてください。
- 割印を押さないと過怠税がかかりますか?
- 印紙税法第8条第2項と施行令第5条が求めているのは、文書と印紙の彩紋とにかけて印紙を消す消印です。この2つの条文に「割印」という言葉は出てきません。過怠税の対象になるのは、印紙を貼らなかった場合(第20条第1項)と、貼った印紙を消さなかった場合(同条第3項)です。契約書の正本と副本にまたがって押す割印は、文書どうしの関係を示すための社内や取引先との慣行として扱ってください。
- 領収書に印紙を貼り忘れて渡してしまいました。どうすればいいですか?
- 印紙税法第20条第2項により、税務署の調査を受ける前に、所轄税務署長へ印紙税を納付していない旨を申し出れば、過怠税は納付しなかった印紙税の1.1倍になります。調査で見つかった場合は3倍です。申出の手続や書類は、所轄の税務署に確認してから進めてください。
- 消印を押し忘れた印紙はどうなりますか?
- 印紙税法第20条第3項により、消されていない印紙の額面金額に相当する過怠税が徴収されます。200円の印紙なら200円分ですが、同条第4項で過怠税の合計額が1,000円に満たないときは1,000円になります。印紙を貼った時点で必ず消印する手順を窓口に決めておくと防げます。
- 整備工場や車販店で、領収書の発行を整備・販売の管理とまとめて扱えますか?
- 入金と領収書の発行を別の仕組みで扱うと、金額や宛名の転記ミスが起きやすくなります。自動車整備システム(自動車整備ソフト)や車両販売システム(車販ソフト)の入金入力から領収書を出せば、転記が要りません。整備システム 比較や整備ソフト おすすめの情報を見るときは、整備ソフト 安いかどうかだけでなく、整備システム リースなしで始められるか、電子領収証に対応しているかも確かめてください。
参考にした一次情報
- 印紙税法(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000023
- 印紙税法施行令(e-Gov法令検索):https://laws.e-gov.go.jp/law/342CO0000000108
- 印紙の消印の方法(国税庁 質疑応答事例):https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/03.htm
- 印紙を貼り付けなかった場合の過怠税(国税庁 質疑応答事例):https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/21.htm
- No.7131 印紙税を納めなかったとき(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7131.htm
- 印紙の範囲(国税庁 質疑応答事例):https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/06/07.htm
- 印紙税法基本通達 第3章第1節 印紙による納付(国税庁):https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi03/01.htm
- No.7105 金銭又は有価証券の受取書、領収書(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7105.htm
- No.7124 消費税額等が区分記載された契約書等の記載金額(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7124.htm
- No.7130 誤って納付した印紙税の還付(国税庁):https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/inshi/7130.htm
- 印紙税法基本通達 第7節 作成者等(第44条)(国税庁):https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/inshi/inshi01/07.htm
- 請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について(福岡国税局 文書回答事例):https://www.nta.go.jp/about/organization/fukuoka/bunshokaito/inshi_sonota/081024/01.htm







